Archive for: 8月 2013

【関西クラスタレコメンリレー】第一回 伊藤計劃『メタルギアソリッド』


レコメンリレースタート!

どうも、shohei0308です。ついに(!)、はじまりました関西クラスタレコメンリレー。 第一回は、関西クラスタCPO(最高哲学責任者)であるColumbus20さんが担当ですー。
この関西クラスタレコメンリレーは、誰かが誰かにこの本を読んでほしいとレコメンする形で、レビューが続いていきます。
今回が初回ということで、自分がColumbus20さんに伊藤計劃の『メタルギアソリッド』をレコメンしました。
最近伊藤計劃以降とか呼ばれるほどに、現代の日本SF界では、重要な作家である伊藤計劃の原点とも言うべき作品であるこの本についての感想を聞いてみたいなーっと思いレコメンしました。
ではでは、以下Columbus20さんのレコメンですー。

 

伊藤計劃『メタルギアソリッド』by Columbus20

本書は基本的には『メタルギア ソリッド』というシリーズもののゲームをプレイしたことがある人に向けた小説である。

登場人物たちは既に長い歴史と複雑な人間関係を背負っており、あらかじめそれらを把握していなければ、スムーズに物語を追うのは難しいだろう。

最低限の情報は提供されるものの、  それらは唐突に提供され、しかも内容はあまりに衝撃的である。

実際に自分は何度か本書に取り組み、何度か挫折した。

 

そして今回機会を得て、改めて腰を据え、人間関係をメモしながら、最後まで読了した。

結論から言えば、素晴らしい小説だった。

東浩紀を中心に形成されたゼロ年代的論点を盛り込んだ舞台設定を背景に、王道ともいえる物語が展開する。

「愛国者達」と呼ばれるシステムはいわゆる「アーキテクチャ」である。

その内実は、規制の存在を意識させることなく、自由が剥奪されていると感じさせることなく、人々を無意識的にコントロールする技術である。実際に物語中には東の造語である「環境管理型権力」という言葉に似た用語も登場する。

そしてその舞台に上に展開される物語は、罪と赦し、父と子の和解といった、神話的ともいえる物語である。

この物語を通じて、環境管理型権力の是非、人間の自由とは何か、といった問題について深く考察することもできるだろう。

ただ私自身は、物語を通して正義を語る、または政治を語る、というのは避けたいと思っている。

正義について語りたければ単に正義について語ればいいのであり、物語は必要ないと考えるからである。

伊藤自身も、これらの「ゼロ年代的」な舞台設定は、単なる物語を彩る素材として扱っているのでないか。

そしてその素材は、物語を駆動する装置として、恐ろしいほど機能している。

冒頭に本書は初読者には没入し難い旨を述べた。

しかし、読み進めていくごとに、そのような瑕疵も気にならなくほどに勢い良く物語は進んでいく。

例えば、以下のようなシーン。

リキッドは、すうっ、と息を吸い込んだ。
アーティストが、観客の最も愛する曲を、イントロ無しで厳かに歌い出す瞬間のように。
リキッドが右腕を持ち上げた。その指先はまるで、子供がやるようなピストルの真似だった。リキッドは人差し指と中指でつくった銃身を、上空を征くヘリに向け、

「ばぁん」

(254p.)

綿密に構成された「愛国者達」も、ひとえにこういうシーンを描くために導入されたのではないか、と思わせる魅力的な場面である。

少々変則的だが、今自分が本書を過去の自分に勧めるとすれば、「ACT3 thrid Sun」から読むように伝えるだろう。

ロマンスありアクションありの、純粋にエンターテイメント作家としての伊藤計劃の力が十分に発揮されている、魅力的な章である。

(Columbus20)

次回

いかがでしたでしょうか。

ゼロ年代を代表する作家である伊藤計劃を読んだ後は、ほかの日本の現代SF作家にも手を出してみるのも、良いんじゃないかなって思うのでレコメンしておきます。

例えば、野尻抱介さんの『ピアピア動画』

宮内悠介さんの『ヨハネスブルグの天使たち』

藤井太洋さんの『Gene Mapper』

などは、個人的に、おすすめです。

 

次回は、Columbus20さんのレコメンで、朝永ミルチさんが田川建三『イエスという男』をレコメンする予定です。

順番は、前後する可能性はありますが、まあ、今月か、来月頭には更新したいと思いますー。

ではではー。