「食べることはひとつの哲学である」
先日発表された、東浩紀編『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1』
「ダークツーリズム」という概念を元に、新たな福島の観光計画を探る大きなプロジェクトの前段である本書。かつて原発事故を経験した都市チェルノブイリの変遷をたどることで、福島のこれから、そして日本のこれからの可能性を探っていくという本書の試みは非常に野心的かつ賛否両論を起こしました。
しかし、このツーリズムガイドという本書には、唯一の欠点がありました。
「食べ物に関しての記述がない!」
そうなのです。仮にも「ツーリズムガイド」である本書は、観光地の紹介記事はもちろん、フード、ショッピングなどの情報を載せることは重要であり、そこからウクライナの生きる人々の生活の姿や、文化が見えてくるかもしれません。
(現に東浩紀氏も、「もっと食事情報とかを載せても良かった、と後に述懐しています」)
ということで、我々関西クラスタは行ってきました
京都祗園四条、
方丈記の冒頭「ゆく河の流れは絶えずして…」と語られる、平安京から前の戦争(応仁の乱)、そして現在にいたる京都の歴史とともに流れ続けていた鴨川と
「一条の戻り橋、二条のきぐすり、三条のみすや針、四条のしばい」とわらべうたで唄われるように京都芝居のメッカ、南座を置く四条通の交点
まさしく悲劇と欲望の、リアリズムと虚構の交差点に、京都を代表するロシアレストラン「キエフ」はあります。
この店は1972年、京都市とウクライナの首都キエフ市が姉妹都市になった事を記念して誕生しました。キエフ市は首都であると同時に原発事故があったチェルノブイリから130kmという距離に位置しており、福島と東京(230km)よりも近い場所に位置しています。また、歌手である加藤登紀子さんの実家としても知られています。
本日はこちらでウクライナ料理を頂いて来ました。
夏期はビアガーデンも行っているため、屋上も開放して営業しております。京都の中心を望める絶好のスペース!(9月13日をもって終了)
前菜 Закуски
そもそも現在では西洋料理として一般的なスタイルである「フルコース」はロシアが起源とされています。寒冷な土地であるロシアでは、スープや温かい食べ物がすぐに冷めてしまうため、それまで全ての料理を食卓に広げるスタイルだった宮廷料理を、順番に提供するという現在のスタイルに変化させました。
スープ:ボルシチборщ
ロシア料理としても知られている「ボルシチ」は実はウクライナ起源。テーブルビートを入れることで赤く染まったスープに、サワークリームを入れて召し上がります。刺激的な見た目とは裏腹に、ビートの甘みが効いたとてもやさしい味わいのスープ。
メイン:キエフスキーカツレツКотлета по-Киевски
ウクライナ料理の特徴として「肉の中にバターを包んで揚げられたカツレツ」というものがあります。寒い地域でカロリーをとるために編み出した技法の一つですが、ナイフを入れたところから熱いバターが肉汁のように溢れ、バターの香りが吹き出す様は食欲をそそられずにはいられません。
デザート:ワレーニキВареники
挽き肉を皮で包んで調理するいわゆる「餃子」文化は、中央アジアを中心に中国から日本のアジア諸国だけでなく、周辺の国にも広がっています。ロシアの「ペリメニ」といわれる水餃子はもちろん、ウクライナでは中に肉だけではなく、果物やチーズを包んで食されます。このワレーニキは中に「ダーク」チェリーを包み、茹でられた温かいデザートを、アイスクリームと共に食べるという一品。
最後はロシアンティーで〆。本来ロシアではジャムを舐めながら紅茶を飲んでいた習慣が、日本ではそのまま紅茶に入れるという形で輸入されました。こちらはバラの花びらから作られたジャムで、華やかな薫りを楽しむことができます。
さて、お腹もいっぱいになったところで、議論にも花が咲く夏の一日(こちらの様子は関西クラスタラジオのpodcastで!)我々は同じものを食べているであろうウクライナ、チェルノブイリの人々に想いを馳せるのでした…(しぇんろん)
(2013.7.21)